IT導入が「入れた瞬間がピーク」になり、現場で使われなくなる現象は珍しくありません。原因はツールの良し悪し以前に、**目的設計・業務設計・運用設計(人とルール)**が欠けたまま導入が進むことにあります。
実際、中小企業のDX調査では「DXは必要」とする企業が約7割ある一方で、取り組みは人材・予算・進め方の壁に当たりやすいことが確認されています。
1) “定着しない”を生む主要因
要因①:社内人材が足りず、運用が回らない(兼務・属人化)
中小企業のDX推進に関する調査(中小機構)では、DXの課題として
- 「ITに関わる人材が足りない」25.4%
- 「DX推進に関わる人材が足りない」24.8%
が上位に来ています。
また、政府側の分析でも「ITを導入できる人材がいない」が大きな阻害要因として挙げられています。
結果:導入初期はベンダーや一部担当者が頑張るが、日常運用(マスタ整備、権限、問い合わせ、改善)が回らず“放置”になります。
要因②:目的・KPIが曖昧で、「何のため」が現場に落ちない
経産省の中小企業デジタル化関連の調査報告では、デジタル化が進みにくい要因として
- 「明確な目的・目標が定まっていない」
- 「アナログな文化・価値観の定着」
- 「組織のITリテラシー不足」
などが指摘されています。
結果:現場から見ると「仕事が増える」「入力が増える」だけに見え、使用が形骸化します。
要因③:業務設計を変えずにツールを入れてしまう(“紙の置き換え止まり”)
中小企業のDX調査(中小機構)では、DXの具体策として「文書の電子化・ペーパレス化」が最多級である一方、比率が前年差で低下しており、“電子化だけ”では次に進めない実態も読み取れます。
また、中小企業白書でも、デジタル化を進めるには「ビジョン・目標」や「業務の棚卸し」を戦略的に実施する重要性が示されています。
結果:手順・権限・例外処理が旧来のままで、ツールが“現場の実態”に合わず、使われません。
要因④:費用対効果が見えない/評価できない(投資が継続しない)
政府の分析では、IT投資をしない理由として「導入効果が分からない・評価できない」が上位に来ることが示されています。
さらに、商工中金の調査では、会計・勤怠など“事務効率化が見えやすい領域”は導入も効果も出やすい一方、他領域では効果が実感されにくい傾向が示唆されています。
結果:「効果不明」→追加改善・教育に予算が付かない→定着しない、の負のループになります。
要因⑤:現場の心理的抵抗と、変更管理(チェンジマネジメント)不足
“慣れたやり方”を変えるには、説明・合意・習熟が必要です。しかし、導入はシステム側の工程で完了扱いになりがちです。
中小企業のデジタル化では「アナログな文化・価値観の定着」が課題として挙げられています。
結果:現場が“使わない理由”を正当化しやすくなり、結局、Excel・紙・口頭に戻ります。
要因⑥:導入後の活用支援(伴走)がない
この問題は政策側も認識しており、IT導入補助金の2025事業概要では、導入後の「活用支援」を対象化し、IT活用の定着を促す旨が明記されています。
結果:初期設定や導入研修で終わり、現場課題の吸い上げ→改善→定着のサイクルが回りません。
要因⑦:中小ほど“全社・業務プロセスへの組込み”に至りにくい
IPAのDX動向2025では、従業員規模が小さいほど取組み割合が下がり、生成AIでも**「業務プロセスに組み込まれている」状態が日本で低い**など、“個人・部署止まり”の課題が示されています。
またIPAはDX推進人材不足が深刻化している点を分析しています。
結果:PoCはできても、標準業務・ルール・KPIに統合できず、恒常運用になりません。
2) 定着させるための「外さない設計」
- 目的を“業務KPI”に翻訳
例:月次締め10日→5日、見積リードタイム3日→1日、入力二重化ゼロ、など。 - 業務棚卸し→例外処理まで決める(紙の置換で止めない)
白書でも「業務の棚卸し」等の重要性が繰り返し示されています。 - 推進体制を“兼務前提”で設計
役割を最小化(業務オーナー/運用責任者/窓口)し、属人化を禁止。 - 導入後90日を“本番開始”と定義(伴走の前提化)
活用支援の必要性は制度側でも明示されています。 - 効果測定(定量)を毎月レビュー
「効果が分からない」こと自体が阻害要因です。
まずは、工数・リードタイム・ミス率・再入力回数の4点で十分です。
3) まとめ
IT導入が定着しない最大の理由は「ツールが悪い」ではなく、**目的(KPI)・業務(標準化)・運用(人材と伴走)**が揃わないまま導入してしまうことです。人材不足や目的不明確が上位課題として繰り返し調査で示されており、導入後支援の重要性も制度側で明文化されています。
