構造を考える
指示を出さないと進まない。
確認がないと判断できない。
多くの企業で見られるこの状態は、能力や意欲の問題ではありません。
実際には、誰がどこまで判断してよいのかが共有されていないため、
担当者は「止まる」ことでしかリスクを避けられなくなっています。
社員が動かないのではなく、
動けない構造になっているのです。
1. 「やる気」の問題に見えるが、実態は“責任の不明確さ”
経営者の方と話をしていると、次の言葉をよく耳にします。
- 最近の社員は主体性がない
- 指示待ちが多い
- 自分で考えて動かない
しかし、現場側の心理はまったく逆です。
担当者は怠けているわけではありません。
むしろ、間違えた時の責任を回避しようとしているだけです。
多くの企業では、次の三つが曖昧なまま業務が回っています。
- どこまでが自分の判断か
- どこからが上司の承認か
- 何をすると怒られるのか
この状態では、社員にとって最も安全な行動は
「何もしないこと」になります。
2. 社員は“リスク回避の合理的行動”をしている
例えば、見積金額の調整、納期回答、顧客への対応変更。
本来であれば担当者がその場で判断した方が早い業務です。
しかし、現場ではこうなります。
「確認します」
この一言が発生する理由は単純です。
判断基準が共有されていないからです。
仮に自分の判断で対応し、結果が悪ければ
「なぜ勝手にやった」と言われます。
しかし、止めていれば怒られることはありません。
つまり担当者にとっては、
行動するリスク > 停止するリスク
になっています。
社員が動かないのではなく、
会社の仕組みが“停止を正解”にしてしまっているのです。
3. マニュアル不足ではなく「権限設計」の不足
ここで多くの企業が誤解します。
「マニュアルを整備すればよい」と考えるのです。
しかし、問題は手順ではありません。
問題は判断権限です。
現場で止まる業務の多くは、作業手順が分からないのではなく、
判断してよいのか分からない
ことが原因です。
例えば次のような項目です。
- 値引きは何%まで許可されるか
- 納期遅延時の説明範囲
- クレーム対応の裁量
- 例外処理の判断
これらが共有されていないと、社員は必ず上司確認に戻ります。
結果として、組織の処理能力は上司の処理能力に依存します。
これが「社長がいないと回らない会社」の正体です。
4. 指示待ち組織が起きる構造
社員の行動は文化ではなく設計で決まります。
指示待ちが生まれる会社には、共通の構造があります。
- 判断基準が共有されていない
- 例外時の責任範囲が不明確
- 失敗時の評価基準が曖昧
この三つが揃うと、社員は次の行動を取ります。
- 判断しない
- 報告だけする
- 指示を待つ
これはモチベーションの問題ではありません。
組織のリスク管理として合理的な行動です。
5. 本当に必要なのは教育ではなく「判断の見える化」
研修や意識改革を行っても改善しない理由はここにあります。
社員は能力が不足しているのではなく、
判断してよい範囲が定義されていないのです。
解決に必要なのは、教育ではなく次の三つです。
- 判断してよい範囲の明文化
- 承認が必要な条件の定義
- 例外時の責任の所在の明確化
これを整理すると、組織は急に動き始めます。
なぜなら社員は、
「動いても安全」だと理解できるからです。
結論
社員が動かない理由は、やる気でも能力でもありません。
判断権限が設計されていない組織では、
社員にとって最も安全な行動は「止まること」になります。
指示待ちを解消する方法は、叱咤でも教育でもなく、
誰がどこまで決めてよいかを決めることです。
組織が止まっているとき、
止まっているのは社員ではありません。
止まっているのは、組織の設計です。
